野崎 有以さん(詩人)
初めてなのに懐かしい
不思議な時間の流れを
感じさせる場所
山口市との最初のご縁は、2009年に東京都で開催された「中原中也の会」の研究集会に参加したことでした。今でもよく「なんて楽しい1日だったのだろう」と思い出します。それまで中原中也や山口市について特に思い入れはなかったのですが、その日以来、私のなかで特別な存在になりました。
変な言い方かもしれませんが、中原中也賞の贈呈式のため、2017年に初めて山口を訪れたときに抱いたのは「帰ってきた」ような不思議な懐かしさでした。中原中也記念館に行くと、館長の中原豊さんが2009年の「中原中也の会」で何気なく撮った写真を見せてくださいました。友人たちと心から楽しそうにしている私の姿を見て、このときの研究集会を通じて出会った中原中也がここへ連れてきてくれたのかもしれない、と深いご縁を感じました。
山口を訪れるたびに感じるのは、時間の流れ方が独特だということ。都会の喧騒から離れると、時間がゆっくり流れるとよくいわれますが、それとはまた違った時間の流れ方なのです。そして、また行きたくなる最大の理由は、小さな子どもからお年寄りまで、出会う方々がとても親切にしてくださることです。その印象は何度訪れても変わりません。
山口市を訪れる際は湯田温泉に泊まることがほとんど。おそらく、新山口駅からタクシーで向かうのが一番便利な方法だとは思うのですが、私は敢えて電車を使うようにしています。その理由は湯田温泉駅がとても素晴らしいから。湯田温泉に伝わる「白狐伝説」にちなんだ大きくて可愛らしい白い狐が出迎えてくれます。春はホームに咲くツツジの花がとてもきれいです。そして忘れてならないのが足湯です。人々とお話ししながら、駅前の足湯につかるのがいつもの楽しみ方。湯田温泉エリアには、駅前以外にも無料で足湯が楽しめる場所がいくつもあります。
「湯田温泉ユウベルホテル松政」もよく利用します。湯田温泉駅から歩いていける距離にあり、目と鼻の先には、湯田温泉観光回遊拠点施設「狐の足あと」や「中原中也記念館」があります。特別室では、源泉掛け流しの温泉を24時間堪能することができます(一部の部屋を除く)。かすかに聞こえる湯音が心地よく、とてもリラックスできます。また、部屋から見える景色も格別で、特に朝靄の中に姿を見せる山々は息をのむ美しさです。
最後にご紹介するのは、私と山口、そして中原中也を結ぶ場所「中原中也記念館」です。山口を訪れた際には必ず立ち寄ります。中原中也の生家跡に建てられているので、個人的には「ちゅうやんの家」と呼んでいます(笑)。建物自体は現代的なデザインですが、かつてここにちゅうやんが住んでいたのだなと思わせるような温もりがあり、ちゅうやんの詩の世界に入ることができます。定期的に開催される企画展もとても魅力的。時間が経つのを忘れてしまうほど見入ってしまいます。
山口には何度も訪れていますが、まだ行ったことのない場所がたくさんあります。いろいろな場所に行ってみたいと思うのですが、結局いつも湯田温泉周辺を散歩して何時間も過ぎています(笑)。時間が経つのも忘れていつまでも滞在したくなる場所。山口はそういうところだと思っています。
関連施設
湯田温泉駅
- 山口市今井町47
- TEL:083-922-0323
中原中也記念館
- 山口市湯田温泉1-11-21
- TEL:083-932-6430
開館時間:5月〜10月/9:00〜18:00、11月〜4月/9:00〜17:00
休館日:月曜日(祝祭日の場合は翌日)、毎月最終火曜日 年末年始
https://chuyakan.jp