佐々木 真さん(檜皮葺職人)
未来につないでいきたい
地域に息づく伝統文化
- 佐々木 真(ささき・まこと)
- 1970年山口市生まれ。江戸時代から続く「ひわだや」の11代目当主。山口市の国宝・瑠璃光寺五重塔や龍福寺など、県内外の社寺や文化財の屋根修復工事に携わる。近年は、檜皮葺や地域の伝統素材を活用したワークショップも手掛けている。
家業の「ひわだや」を継いで30年が経ちました。ひわだやが手掛ける檜皮葺(ひわだぶき)は、ヒノキの樹皮を何層にも重ね合わせて竹釘で固定していく日本古来の屋根工法です。優美な曲線と重厚感を併せ持つこの工法は、「伝統建築工匠の技:木造建造物を受け継ぐための伝統技術」の一部として、ユネスコの無形文化遺産に登録されています。近年は、この伝統技術を守り伝えていくために、小学校への出前授業や講演、やまぐちの伝統素材を使ったワークショップにも力を入れています。また檜皮から抽出した香りをブレンドした「瑠璃KOUアロマシリーズ」の開発やインバウンド向けのツアーの企画など、自社資源を活用した新たな取り組みにも挑戦しています。
私が生まれ育った山口市大殿地区には、今も古い町家や歴史的な建造物が多く残されています。このような土地柄だからこそ、私たちのような伝統文化に携わる職種が、今もなお受け継がれているのだと思います。仕事柄、海外ゲストや留学生を受け入れる機会がたくさんあるのですが、彼らと交流するなかで、日常に埋もれた地域の魅力に改めて気づかされることがあります。美しい星空や川底が見えるきれいな川、そこに生息する昆虫や鳥の多様性など、普段当たり前に目にしているものが、この地域にしかない特別な価値であることを再認識しています。そんな山口市の魅力のなかから、私がおすすめするスポットをテーマ別にご紹介したいと思います。
社寺や建築に興味のある人にご紹介したいのが、秋穂・秋穂二島地区の氏神様として知られる「秋穂正八幡宮(あいおしょうはちまんぐう)」です。建築様式がこの地方独特のものであることから、本殿・拝殿・楼門・庁屋は、国の重要文化財に指定されています。この神社は、私の知る限り、県内唯一の総檜皮葺の建造物になります。2009年に鐘楼の復元を、2019年には楼門と庁屋の葺き替え工事を担当させていただきました。檜皮葺屋根の一番の見どころは、楼門正面の唐破風(からはふ)と呼ばれる部分。大きくてダイナミックな造りに圧倒されます。写真を撮るなら、屋根全体が檜皮葺だとわかるように南側から撮るのがおすすめ。両脇に灯籠がずらりと並ぶ、緑に囲まれた長い参道もカッコいいです。
続いては、中心商店街にある厨房用品と刃物の専門店「末廣」。創業は大正15年、まもなく100周年を迎える老舗です。なんといっても圧巻なのは、壁一面にずらりと並べられた包丁。普段使いから用途別に特化したタイプまで、その数なんと400種類以上! 見ているだけでも楽しめます。海外ゲストや留学生から「日本のナイフをお土産に買って帰りたい!」と言われたときには、必ずご案内しています。鍋やフライパン、便利なキッチン用品も充実しており、それらの説明を通じて互いの文化への理解を深めています。
旅の最後を締めくくるのにぴったりなのが「SLやまぐち号」です。現在、「デゴイチ」の愛称で親しまれる「D51形200号機」が、JR山口線の新山口駅から津和野駅間を、5月〜11月の土日祝日を中心に1日1往復しています。ひわだやの工場がJR山口線の近くにあるので、子どもが小さい頃には、山口駅を出発する迫力ある汽笛が聞こえると、線路脇まで駆けつけて観光客のみなさんに手を振っていました。今も、ワークショップや打ち合わせに来られたゲストをお連れすることがあります。特に夏休みなどのハイシーズンは人気が高いので、早めの予約がおすすめです。ただし、予約でいっぱいの場合でも、JR山口駅から乗車してJR新山口駅で下車する上り区間は、当日空席が出ることがあります。以前、新幹線でお帰りになるゲストへのサプライズとして利用したときには大変喜ばれました!
日帰りでは山口市の魅力を堪能しきれないと思うので、ぜひ泊まりがけで訪れてほしいですね。夜は湯田温泉の良質なお湯や美味しい食事を楽しんで、朝は神社仏閣を訪れたり、まち並みを散策したりと、さまざまな楽しみ方が広がっています。土日祝日であれば、国宝・瑠璃光寺五重塔(香山公園)の東屋で活動されている観光ボランティアガイドを事前予約するのがおすすめ。滞在時間や自分の興味に合わせて、ひと味違った旅を案内してもらえます。また、時間に余裕があれば、北部でりんご狩りをしたり、南部で車海老を堪能したりと、遠方に足を延ばして豊かな自然や食を満喫することもできます。ぜひ、あなただけの山口市の魅力を見つけに足を運んでみてください。
関連施設
秋穂正八幡宮
- 山口市秋穂西宮之旦337
- TEL:083-984-4256(10:00〜18:00)


SLやまぐち号
JR西日本お客様センター
TEL:0570-00-2486(9:00~19:00)
定休日:なし
https://www.c571.jp/
